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once 1 俺達の今

***1***


「彼女それで、怒って帰っちゃってさ、まあそんなところもかわいいんだけどな~。………おい、聞いてるか?」

有芯(ゆうしん)は上の空のまま、携帯を持っていないほうの手で自分の後ろ頭をぐしゃぐしゃとかき乱した。パーマのかかった茶色の長髪がくしゃくしゃに乱れると、その手を宙に投げ出し、彼は答えた。「……………あーああ、聞いてるよ」

「そうかい、聞いてなかったんだな?」

電話の向こうでため息をつくのは、有芯にとって無二の親友である矢島智紀(やじまともき)だ。

有芯は見えないのをいいことに眉間に思い切り皺を寄せ、心でため息をつき思った。まったく、自分の恋愛話をそんなに喋って嬉しいものなのか?! 男は彼女ができると、普通は友達と多少疎遠になったりするものだと俺は思う。

本人は、「相談したいから」と言って電話してくるが、実際のところ俺は相談にのっているのではなく聞き役に徹しているだけだし、智紀もそれで満足しているようだ。

喋りすぎたことを反省したのか、智紀は話題を変えた。「で? 有芯は?」

「ん? 何だ?」

「まだ彼女いないのか?」

出たな、と思い、有芯はうんざりした声で答えた。「まぁね」

智紀は楽しそうに、持ち前のおちゃらけた声で有芯を茶化した。「おっ、ついに開き直ったか!?」

有芯はむっとして答えた。「だいたい俺、前の彼女と別れたばっかりだぜ?! いなくて普通だろ?」

「前のお前なら、すぐに付き合ってくれる女はいっぱいいたのになぁ」

智紀のヤツ、今絶対ニヤニヤしてるだろ……。そう思いながら、有芯はまた後ろ頭をくしゃくしゃにすると、部屋のベッドにドカリと腰を下ろした。

「……………。俺、10代のときはジャニーズ系の甘いマスクが女どものお気に入りだったかも知れないけどな、ちょっと老けてきたら、そりゃもてないぜ?! ジャニーズのアッキーもきっと、俺と同じ運命をたどるな。で、俺、性格悪いだろ?」

「否定はしないぜ」

「おまけにわがまま」

「否定はしない」

「そんなやつが、顔の力なくしてもてるか?」

智紀は親友の自己分析結果に一通り大笑いしてから、やっと「ムリかもな」と言った。

有芯は脱力した。「だろ?」

「ま、そこまで自分のことを分かってるぶんましだよ。遠い海の向こうから、幸運を祈る」

「何が遠い海だ。一応ここも日本だぞ」

有芯は電話を切った。会話を反芻してみると自然にため息が出てきて、彼はベットに寝転ぶと、まだ昼間にもかかわらずそのまま眠ってしまった。



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